高松高等裁判所 昭和30年(う)596号 判決
にも会い、その附近の情勢を聞くことを話合い、両名同道してまず青木正男方に赴く途中、丸岡トシミ、安藤ヨシエ方がいずれもその道端にあり、被告人等が右居宅の前を通つた際昼間のこととて丸岡トシミ、安藤ヨシヱが夫夫その居宅前庭一面に叺を乾し並べて、その艶出し作業をしていたのを認めたので、中北が通りすがりに夫夫に精が出ますなあ、と挨拶した後よろしく頼みますとか、或はお願いします旨述べて通り過ぎたもので、特に被告人等が共に右両家を投票依頼の目的で訪問したものと認められない。次に被告人は右青木正男方に到り、同人に対し、中北から同部落の誼みを以て被告人の為に選挙運動をして貰い度い旨申出たが、同人は既に取引上の事情から他部落の者であるが沼野候補の応援をしているからといつて拒絶せられたので、これを諒として同家を辞去したところ、笹川ミツヱ方は青木方と細道を距てて、門構えがあり、被告人等はその細道を通つて県道へ出る途中、門の直ぐ内側にある井戸端で鶏の餌をねつていた笹川ミツヱと顔を見合したので中北が通りすがりの挨拶を交わした序にどうかよろしくお願いしますと述べて立去つたもの又本田俊は予て中北から被告人の選挙運動を頼まれ、古川の事務所にも来たことのある者であるから同人方附近の選挙情勢を尋ねに行つたものであつていずれも投票依頼の目的でこれを訪問したものとは認められない。又被告人はその後中北とわかれ、帰途附近県道上において、所用の為丸亀市へ出かけようとしていた被告人の選挙運動者杉尾忠男と出合い、同人から選挙情勢を聞くや更に被告人の選挙運動者である大東忠之方に行き、同人から選挙情勢を聞かんものと両名同道大東方西側まで行つたが、大東の妻から大東の不在なることを聞き、そのまま帰途同家から県道に出ようとしたところ途中杉尾清八、中西与三郎、山科ミサヲの各居宅前庭先において偶々同人等を認めたので杉尾忠男においていずれも道路端から右各人に夫夫挨拶をした序でによろしく頼むといつたに止まり、特に右杉尾清八、中西与三郎、山科ミサヲから投票を得る目的を以てこれを戸別に訪問したものと認め難い。これを要するに候補者又は選挙運転者が特定の選挙人に選挙運動を依頼し、又は選挙運動者から選挙の情勢を聞く為、これを訪問することはこれら被訪問客からその投票を得る目的を以てしない限り、これを戸別訪問ということはできない。又戸別訪問は必ずしも被訪問者の居宅内に這入り、投票を依頼する場合に限らず、たとえ家の軒先、道路上であつても通常被訪問者の居宅と認められる場所にこれを訪ねて投票を依頼した場合には戸別訪問というべきこと勿論であるが、特定の選挙人に投票を依頼するつもりでなく、選挙情勢を尋ねるため、自己の選挙運動者方に行く途中道路上或は庭先等で見かけた選挙人に対し、通りすがりの挨拶をしたに止まる場合、その言葉の中によろしく頼む旨の言辞があつたとしてもそれが儀礼的と認められる程度のものである限り、これを投票依頼の為にする戸別訪問をしたものと解すべきでない。以上の認定に反する原判決引用の検察事務官に対する被告人並に各関係人の供述調書、及び司法警察員に対する被告人の供述調書の記載はこれを当審における前記各証人の尋問調書及び検証調書の記載と照合して、真相に副わないものというべく、その他の証拠によつても被告人が公職選挙法に所謂戸別訪問をしたと認められない。然るにこれを戸別訪問と認定した原審の認定は事実誤認の違法があり、この違法は当然判決に影響すると認められるから原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
(裁判長判事 三野盛一 判事 谷弓雄 判事 合田得太郎)